飲食業界にイノベーションを起こすエイジングシート。その成功の裏には質問型営業があった。

良質な菌の力で肉や魚の保存性を高め、熟成も促す〈エイジングシート〉が今、飲食業界にイノベーションを巻き起こしています。類のない画期的な商品。にもかかわらず、発売当初は数字が伸び悩んでいました。そんな時、質問型営業の門を叩いた(株)ミートエポックの跡部美樹雄社長。1人の料理人をお役立ち営業マンに変身させ、マネジメントにも及んだというその活用術を伺いました。

手繰り寄せたビジネスチャンス

ミートエポックさんの〈エイジングシート〉は、『ガイアの夜明け』をはじめ名だたるメディアを席巻しましたね。コロナ禍で社会問題になったフードロスの解消に貢献できる商品としても注目を浴びています。
ありがとうございます。エイジングシートは、良質な菌を付着させた布です。肉や魚にこれを巻きつけるだけで保存性が高まり、さらに菌の力で食材を発酵・熟成させることもできる。つまり、食材を寝かせている間、腐敗させないどころか旨味を育てるシートなんです。
社名に恥じないエポックメイキングな商品! ですが、もともとは飲食店の経営者としてご活躍ですよね。どうして研究・開発に挑戦を?
ある時、熟成肉に出会ったことがきっかけでした。そのあまりの旨さに、全身をビビッと電気が駆け抜けたような衝撃を受けまして。自分なりに製法を勉強をして、熟成肉の専門店を立ち上げました。自信をもってスタートしたので、評判は上々。ただ、当時の熟成肉はロジカルに作られておらず、お客さまに「なぜ美味しいの?」と聞かれても裏付けできるエビデンスがありませんでしたし、そういう状況でブームになったのでファンが付かず淘汰されていく店も多かったんです。そこで、肉を熟成する過程で何が起きているのか? なぜ熟成すると美味しいのか? メカニズムを解明して「美味しいを見える化したい」と思ったんです。それが開発の原動力となりました。
明治大学の村上周一郎教授と、産学連携で共同研究をされたとか?
そうなんです。運良く知人から村上先生を紹介してもらい、共同研究をご快諾いただきました。ところが、熟成肉の作り方をご説明した段階で先生がポロッと、想定外のことをおっしゃったんです。「とてもリスクのある食材だね」……と。
熟成肉そのものが、危険な食材だったということですか?
そうなんです。当時の熟成肉は、温度や湿度を管理しながら、自然浮遊している良質な菌を肉に付着させることで熟成を促していました。しかし、望まない菌が付着した場合には食中毒を引き起こす可能性もあるとご指摘いただいて。それで急遽、研究のベクトルがリスク回避の方向にシフトしていったんです。
「美味しさの見える化」から「安全性の再現」に舵を切ったんですね。
はい。それも、高い再現性が担保できないと意味がありません。「誰でも / どこでも / 簡単に」の3つをキーワードに研究を重ね、結果的に「良質な菌だけで肉全体を覆う」という発想に辿り着きました。ヒントになったのが、昔から精肉工程で行われている「布を巻く」作業。足掛け2年で完成したのが〈エイジングシート〉です。

営業マンは、カウンセラー



画期的な商品が完成し、メディアにもかなり露出して。営業をせずとも売れそうな状況ですが、なぜ〈質問型営業〉に興味をもってくれたのでしょうか?
確かに「すごいものを開発した」という自負はありました。実はそれが災いして、思いのほか販路が拡大しなかったんです。
当初はどんな営業をされていたのですか?
営業よりもマーケティングの戦略に走ったので、例えばオーダーを受けてサンプルを送るまでのすべてを、システム上でオートメーション化していました。商品への自信も思い入れも強すぎる余り、お客様に対して生意気なくらい上から目線だったんだと、今なら思います。
マーケティングと営業のバランスを失ってしまったケースですね。起こりがちな事例です。
さらに、別の事業に失敗したことも重なり、会社の経営も傾き始めて。私のメンタルも含めいろいろな事が崩れてきた頃、あるビジネスセミナーで青木先生の質問型営業に出会い、直感で「いい」と思いました。
質問型営業との出会いが偶然、会社のターニングポイントと重なったとは運命的。研修は、跡部社長と営業のKさんの2人で受けていただきましたが、いかがでしたか?
2人とも営業初心者で、だからこそ青木先生の教えを素直に実践するのみでした。最も印象に残っているのが、先生と一緒に営業マニュアルを作った時のこと。作業中ふと、「営業マン=カウンセラー」だと気づいた瞬間があったんです。営業とはモノを売ることだと思っていましたが、その概念を覆されたというか。
そのとき初めて、営業は「お役立ち」という捉え方ができましたね!
はい。初めて「私たちの役割は何か?」という思考にスイッチが入り、食材の命を延ばせること、美味しくできることに気付かせてあげることが我々の「お役立ち」だと考えました。「菌の力で多くの人がハッピーになるのではないか?」とまで思えるようになったんです。ならば下手に商品を安売りする必要も、逆に高く売る必要もない。とにかく目の前の人のために「何ができるか」を考えよう……と。
価値のある商品を生み出せたのですから、必要とする人に届けてこそ価値が生きる。そこに気づいていただけて私も嬉しいです。そして、Kさんも素晴らしい営業マンに成長してくれました。飲食店の店長から青天の霹靂で営業を任されることになって、最初は「人と話すのが苦手」だと悩んでいましたが、すぐにコツを掴みましたね。彼の成長は、身近にいらっしゃる社長がいちばん感じているのでは?
おっしゃる通りです。彼も私と同じで、営業を始めた頃は「商品を使ってもらえば良さが分かってもらえる」という感覚でいたそうです。それが今では「我々のことを理解してもらうには、まずお客様のことを理解しないと」と口癖のように言っていますし、お客様と向き合うと「どうしてこの仕事をしているのだろう?」「なぜ今のお店をオープンさせたんだろう?」……と、次々に質問が湧いてくるようです。深掘りしていくと相手も興味を示してくれて、話もしっかり聞いてくれるので、良好な信頼関係が築けるようになってきています。
先日、「営業が好きになり始めている」とも言ってくれましたよ。なぜなら「恐怖心がなくなったから」だと。Kさんは飛び込み営業する時、店のまわりを3周くらいして、タイミングを伺いながら訪問していたそうです。「忙しいから邪魔じゃないか」「嫌われるのではないか」と恐る恐る営業していた彼が、「お役に立つために営業をしているのだから」と堂々とした態度に変わりました。

組織に起きたイノベーション

さきほど青木先生を「直感でいいと思った」と言いましたが、私とKさんを魅了したのは、先生の「営業は楽しいぞ」という言葉だったんです。それを信じて学び、今まさに楽しさを実感していますし、成果も出せています。その証拠に、質問型営業をするようになって「ありがとう」を言われるようになったんです。
以前は「ありがとう」と言われていなかった?! その言葉をもらうと、自分たちが売っている商品にも、質問型営業に対しても信念が強くなるでしょう? 今後もますます営業を好きになれますよ!
楽しみですね。実は、マネジメントにも良い影響がありまして。質問型営業を始める前、私がKさんに確認していたことといえば目先の訪問件数や数字ばかりでした。私の営業スタイルを押し付けたりもしていました。最近は、彼の気持ちを理解した上で方針を話し合えるようになりましたし、アドバイスする内容もお客様との向き合い方や価値感の話などに高度化しています。
おっしゃる通り、質問型営業のノウハウは社内のコミュニケーションやセルフマネジメントにも活用できます。結果、組織力もパワフルになるという好循環が生まれるんです。
そこも質問型営業の素晴らしさだと思うんです。まず、お役立ちの視点が入ることで人間関係の捉え方が変化しましたし、毎日、毎週、毎月の振り返りをする習慣ができたおかげで、「明日のために今、何をすべきか? 10年後のために、何をすべきか」という未来思考も身に付きました。
経営者として、発する言葉も変わってきましたね。営業を学びに来ていただいて、マネジメント力まで高まっていらっしゃると思います。
青木先生には、画期的な商品という武器を手に入れても、それを使う心持ちがなければ武器に振りまわされるだけだということを教えていただいたと思っています。商品とお役立ちの心、この両輪があって初めて世の中に価値を届けられるんですね。
これからもその価値を、ぜひ多くの方々に届け続けてください!

ミートエポック㈱
跡部 美樹雄 社長

板前、商品開発、店舗運営、フードコンサルティングを幅広く経験し2009年『立吉餃子』を独立開業。2012年に2店舗目の『旬熟成』をオープンさせ熟成肉業界に進出。GINZA SIX店など全7店舗を展開する傍、2017年に明治大学との産学連携ベンチャー『ミートエポック』を設立。共同開発したエイジングシートは有名料理店でも導入され、メディア掲載、受賞歴も多数。

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