DX化で住宅棟上数地域トップ。
質問型営業組織が生まれたストーリーに迫る。

東北・宮城県に10店舗を構える住宅メーカー(株)あいホーム。その3代目である伊藤謙社長は、60余年続く会社の歴史にDX化の改革をもたらし、地域No.1企業に成長しています。その一端を支えたのが、質問型営業でした。伊藤社長は、まず自身が習得した質問型営業を部下に「教える」場面で苦労したそうです。そこで取り入れた企業研修の効果とは……?!

10年で地域No.1企業に!

東北地方の新築戸建市場において、宮城県は屈指の激戦区だそうですね。大手上場企業が大きなシェアを占める中、地方工務店のあいホームさんが地域No.1に躍り出たのは、2019年のことでしたか?
はい。宮城県北部地方の着工実績でNo.1の成績を挙げることができました。東日本大震災からの10年間、地方工務店の生き残りを賭けて数々の挑戦をしてきたことが実を結びました。
経営のノウハウをまとめた書籍も出版されましたね。普通は社外秘にしておきたいと思うような話も、包み隠さず披露していらっしゃいます。
そうなんです。「私の経験を、当社と同じように頑張っていらっしゃる地方工務店の方々に届けたい」。そんな思いから書籍化に至りました。『地域No.1工務店の圧倒的に実践する経営』という本です。
伊藤社長はあいホームさんの3代目ということですが。地域に根ざした企業として、長い歴史をお持ちのようですね。
昭和30年代に祖母が創業した〈伊藤商会〉がルーツで、建築資材を扱う会社からスタートしました。2代目の父が住宅会社に業態を変え、3代目の私は2020年に父からバトンを受け継ぎました。
高度成長期の頃とはいえ女性が創業とは、パワフルなお祖母さま! そのエネルギーを受け継ぎながら、代々大事に育ててきた会社なのだと思います。

3.11からの快進撃



もともと後を継ぐつもりで、山形県で住宅営業の修業を、そして徳島県の先輩のもとで経営の修業を積んでいたのですが……その途中で起きたんです、震災が。その日、外出先から急いで会社に戻ると、地元の仙台空港が津波にのまれる映像がテレビで流れているし、家族には全く連絡がつかないし。居てもたってもいられない状況でしたね。ありがたかったのは、修業先の社長が「伊藤くん帰りな。何でもするから」と言ってくれたこと。社長も阪神淡路大震災を経験していたんです。ほかにも車を譲ってくれた人、車に水を積めるだけ積んでくれた人、たくさんの方のおかげで地震発生の翌朝、実家まで帰り着きました。
皆さんのご厚意を思うと、涙がでますね。なんとか辿り着いたご実家は、どんな状況でしたか?
夜通し運転しながら、家族のことが心配でしかたなかったのですが、着いてみると幸い無事で、逆に「帰ってこなくても良かったのに」と私を心配してくれたことを覚えています。電気も水も、あらゆる生活のインフラが乏しく、まだ寒い東北の3月、みんな下を向いて将来に不安を抱えた状況でした。ポジティブな父でさえ本当に深刻な表情をしていて。あんな険しい顔は見たことがなかったですね。
「いったい、この先どうなるんだろう?」と不安だらけですよね。仕事もストップしていたんですか?
はい。工場が被災して資材の調達ができなかったし、ガソリンの供給が途絶えていたので車で移動もできません。「何か役に立たないと」と思って帰ってきたのに、何もできない無力感だけが、もどかしくそこにありました。いちばん悔しかったのは、多くの方の家が倒壊して「早く建て直して欲しい」というニーズが寄せられているのに、それに応えられなかったことです。
無力感……私も阪神淡路大震災で経験しましたが、本当にどうしようもないんですよね。しかし、「何の役に立てるか?」を考えることが未来への原動力にもなりました。
そうなんです。何もできない悔しさが逆に原動力になり、「私が先頭に立って、どんどん新しい取り組みを実行しなければ」と考えました。震災をきっかけに家業に入り、手伝えることは何でも手伝いながら今日まで駆け抜けてきた、という感じです。
震災後の需要にしっかりと応え、業績を伸ばしてこられた。その貢献度が、地域No.1工務店という形で証明されたわけですが。一方で、震災特需は一時的なもの。一気にニーズが減る怖さもあったのでは?
ありました。だからこそITやネットの活用、そしてDX化など、時代の変化に対応する仕組みづくりにも力を入れてきました。
コロナ禍では、いちはやく〈バーチャル展示場〉を展開しましたね。 パソコンやスマートフォンで住宅展示場が見学できるという……



はい。家づくりを検討しているお客様が、ステイホーム中も情報収拾できるよう、当社の展示場全てをVRコンテンツとして公開しました。一瞬にして命が奪われ無力感に苛まれた震災に比べれば、コロナ禍はオンラインを駆使して多くの行動を起こせたことが救い。その渦中に代替わりし大きなプレッシャーを背負うことにはなりましたが、“あの時”の悔しさに比べれば「やれることがある」という感覚です。

営業改め、住宅アドバイザー

質問型営業を学んでくれたのは、そんな一連の改革の最中でしたね。最初の接点は何だったんですか?
ポッドキャストの番組です。社長になる前に営業を担当していたのですが、シンプルに、売れなくて。これから社長になろうという人物が家を売れないなんて(汗)と不安になり、書籍を読みながら我流で勉強してきました。が、「これだ」と思える内容になかなか出会えず。ある時、たまたまポッドキャストで青木先生が〈質問型営業〉についてお話しているのを聴いて、ついに「これだ!」と腹落ちしたんです。それで、青木先生のお話を実践してみると、思った以上に成果が上がりました。
ありがとうございます! まずご自身で試してみてから企業研修をお申し込みいただきましたが、そのきっかけは?
私自身はコツが掴めたのですが、それを「教える」となると全く別の話だということに気づきまして。社長になって「組織で売る」という視点になり、営業が得意じゃない社員への教育を試みたのですが、どう教えたらいいのかが分からず、売上もいっこうに上がらない日々。今思えば、私は質問の大切さを説明型で教えていたんです(笑)。
本末転倒(笑)。伊藤社長だけではなく、質問型営業を習得した人がリーダーやトップになって壁にぶつかることは多々あるんですよ。教育する段階で行き詰まるんですね。
まさに、そうなんです! 売上が上がらず苦しんでいる社員をみると、私と同じような思いをさせたくないという気持ちがありましたし、社員にも学びたい意欲がありました。そこで、チームで学ぼうと思い企業研修を申し込みました。
研修を受けてみて、いかがですか? 5名の方に受けてもらいましたが、どんな変化を感じていらっしゃいますか?
私が教えたときは全然成果が出なかったのに、青木先生の研修がスタートしてからは、わずか1ヶ月で成果が出始めたことに感動しています。特に実感しているのが〈振り返り〉の効果です。毎日、毎日、その日にできたことを書き出すと自信が積み重なっていくので、営業力が少しずつレベルアップしていくのを本人が実感できるようです。
皆さん、本当に日々成長していますよね。私もその振り返りシートを見せていただきますが、営業に喜びを感じている様子が伝わってきて、読ませていただくのが楽しみです。
書籍でも触れたのですが、さまざまなシステムがIT化できる中、どうしてもIT化できないのがお客様とのコミュニケーションであり、それを実践するために必要なのが質問型営業だと信じています。また、質問型営業を習ってから、当社では営業担当を〈住宅アドバイザー〉と呼ぶようになりました。家を売る人ではなく、お客様の「お役立ち」になるための専門アドバイザーだからです。
その信念が根付いたようで、私も嬉しいです! これからまだまだ、伸びていきますよ。応援しています。
ありがとうございます。地域No.1工務店として、さらなる奇跡を起こせるのではないかとワクワクしています。

株式会社あいホーム
伊藤 謙 社長

板地域密着型の住宅工務店の3代目社長。1984年宮城県加美町出身。神奈川県桐蔭学園高校、明治大学でラグビー部所属。経営修業を経て東日本大震災を機に家業へ参入し、DX化による業務改革を推進した結果、2020年にはコロナ禍で前年比130%の受注を達成。その経験をまとめた『地域No.1工務店の圧倒的に実践する経営』(日本実業出版社)が話題になっている。

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